佐賀大学発ダイズ遺伝子ハカナダで大活躍!!

update: 2025.03.04

高木 胖  S36卒 農学・育種  佐賀大学名誉教授

はじめに

 80%の高オレイン酸ダイズは、カナダのオンタリオ州・ケベック州を中心として栽培面積を拡大し、3年、5年、または7年後には4万ヘクタールが達成されると考えられています。このダイズは、佐賀大学育種学研究室で開発されたKK21、B12由来の高オレイン酸となる変異遺伝子を持ち、カナダで非GMOのダイズ品種MYSTICおよびALINOVAとして市場に登場し(2023年5月)、佐賀大学とカナダのSEVITA GENETICS社との共同開発から生まれものです。これは佐賀大学で作出された変異遺伝子が海外に進出した初めての事例となります。High oleic acid soybean line SVX- 4003 (検索)

 これに対して、北米の高オレイン酸大豆の(非GMOとGMO)市場規模は2023年では4億4060万米ドルです。高オレイン酸大豆は年平均12.3%の成長が見込まれていて、7年後の2032年では、約2.5倍の11億1451万米ドルになるものと予測されています。高オレイン酸大豆市場 予測 2024 – 2032年(検索)

ではなぜ、高オレイン酸のダイズが注目されているのでしょうか?

 それは、ダイズ油に多く含まれているリノール酸(56%)やリノレン酸(8%)が酸化すると、過酸化物や不快な臭いが発生するからです。このダイズ油の酸化を防ぐには、一般的には抗酸化剤の添加や過熱水素添加処理が行われます。しかしながら、この水素添加処理によってマーガリンやショートニングを生産する過程では、リノール酸やリノレン酸からトランス脂肪酸が生成されることが知られています。アメリカ国内で販売される食品に含まれるトランス脂肪酸の摂取量は1日あたり0.5グラム未満に規制されていて、アメリカ国内で消費される全植物油脂の55.6%を占めるダイズ油にも、80%以上の高オレイン酸かつ10%以下の低リノール酸、低リノレン酸となる品種改良が求められています。

1 高オレイン酸(KK21、E11とB12)で低リノレン酸(M5、M24とA9)となる遺伝子とは

 ダイズの種子にはタンパク質が約40%、脂質が20%含まれることから、畑の肉とも呼ばれており、世界の穀物生産の第6位を占める重要な作物です。我々の研究は、このダイズの油脂成分のうちで、特に、脂肪酸組成についての改良を進めてきたものです。 油脂作物における脂肪酸生合成経路は共通していて(図)、パルミチン酸(16:0)→ステアリン酸(18:0)の炭素鎖伸長反応と、ステアリン酸(18:0)→オレイン酸(18:1)→リノール酸(18:2)→リノレン酸(18:3)の不飽和化反応が含まれます。この経路のそれぞれの反応には3~4個

の遺伝子が関与しており、各脂肪酸含量はこれらの遺伝子によって制御されると考えられています。ダイズのフクユタカの脂肪酸組成は、22.0%の低いオレイン酸と56.2%の高いリノール酸含量が特徴で、リノレン酸含量が8.1%と高くなっています(表)。

開発された「佐大HO1号」は(2023年品種登録)、KK21とE11由来の変異遺伝子の導入によりオレイン酸含量は82.0%まで増加し、リノール酸含量は4.2%まで低下、M5由来の変異遺伝子の導入によりリノレン酸含量は3.7%まで低下するように改良されています。

どのようなメカニズムで82%もの高いオレイン酸含量となるのでしょうか?

 また、3.7%の低いリノレン酸含量になるのでしょうか? ここで説明しましょう。種子において、オレイン酸からリノール酸への生合成経路には主に2つの不飽和化酵素遺伝子が関与しています。このうちKK21ではGmFAD2-1a遺伝子の232番目の塩基の一つが欠けており、その結果、この変異遺伝子から作られる不飽和化酵素は機能せず、オレイン酸からリノール酸への変換が部分的に阻害されます。同様に、E11ではGmFAD2-1b遺伝子の ORF上に一塩基置換があって、やはり不飽和化酵素としては機能せず、これらの相加効果によってオレイン酸の蓄積がおこります。従って、佐大HO1号のオレイン酸含量は80%以上と高くなり、リノール酸含量は4.2%と低くなるのです。次に、リノール酸からリノレン酸の生合成経路には、主に3つの不飽和化酵素遺伝子が関わっていますが、佐大HO1号ではそのうちの1つであるM5由来の変異遺伝子がコードする不飽和化酵素が機能せず、リノール酸からリノレン酸の生成合成が部分的に阻害された結果、リノレン酸含量が8.1%から3.7%にまで減少しています。さらに、高オレイン酸・低リノレン酸系統では、これらの遺伝子に加えて、リノレン酸を低下させるM24およびA9由来の変異遺伝子の機能がプラスされたことで、リノレン酸含量が1%に減少し、ほぼ“ゼロ”となっています。この様に、ダイズでは添加される変異遺伝子の数が4個、5個と、数を重ねることで、これまでにない脂肪酸組成を持つ油を作ることが出来ることが証明されました。理論的には、高オレイン酸・低リノレン酸系統に高パルミチン酸(HPKKJ10)となるKK7とJ10の変異遺伝子をプラスするとオリーブ油と同等の脂肪酸組成となり(7個の添加遺伝子)、更に、高ステアリン酸(SPKKM125)となるKK2とM25の遺伝子を加えると、カカオバターと同等の脂肪酸組成となる油を生産するダイズが出来るかもしれません(9個の添加遺伝子)。

2 古典遺伝学から分子遺伝学へ、研究は進化しています

 ダイズの突然変異の研究は、そのゲノム中に存在するおおよそ4万5千個の遺伝子を対象としたものとなります。我々の脂肪酸突然変異の研究は1987年頃から本格化し、ガスクロマトグラフィーを用いたM2世代12,266個体の分析から脂肪酸組成の変化した46系統の突然変異体を得ることが出来ました。さらに、脂肪酸組成の突然変異の選抜では塩基配列情報を利用する方法も有効です。たとえば、オレイン酸に関わる変異のスクリーニングでは、「ダイズ突然変異体ライブラリー」から、TILLING法を用いて標的遺伝子の塩基配列に変異が生じた個体を選抜しました。その後、ガスクロマトグラフィーを用いてその個体から得られた種子の脂肪酸組成を分析し、脂肪酸の突然変異体であることを確認するのです。このようにして逆遺伝学的手法で得られたB12系統やE11由来の遺伝子は、KK21の変異遺伝子と合わせて80%を越えた高オレイン酸のダイズ品種の実用化に利用され、同じく、A9由来の変異遺伝子はM5とM24由来の変異遺伝子にプラスされてリノレン酸含量を1%に低く抑える育種を実現しています。このように突然変異体の選抜は、古典的な表現型を基本とした選抜であれ、塩基配列情報に基づく分子的な方法であれ、レアな遺伝子を「見つけ出す」には、多数のサンプルを扱うことが必須となります。育種学研究室には10アール程の畑があって、毎年ダイズを栽培しています。先ずは材料となる植物の栽培、変異遺伝子の選抜では学生さんあっての技術と体力の世界です。

トピックを一つフラン酸含量を減少させる突然変異遺伝子の発見があります

(フラン酸、佐賀大学で、検索)。光酸化されやすい「フラン酸を作らない遺伝子」と80%の高オレイン酸ダイズ、この両者の性質を併せ持った品種の育成は、さらに高い酸化安定性や明所臭の発生を抑えるダイズ油の製造に役立つものと期待されています。研究の成果は、国内外の学術誌に掲載されており、「ダイズ脂肪酸組成の改良に関する遺伝育種学的研究」(高木胖 ・ SM.ラーマン、2001年)と、「ダイズ突然変異体リソースの整備と新規アリルの開発に関する研究」(穴井豊昭、2020年)として、日本育種学会賞を2回に渡って受賞するという評価を得ています。

3 高オレイン酸大豆の利用と拡大、森光商店と商品化

 80%の高オレイン酸大豆の特徴としては、熱処理に強く、加工後の製品にもオレイン酸が多く残るので、その機能性を生かした食品分野での利用に期待が高まっています。さらに、酸化安定性が高いため通常の大豆製品よりも賞味期限延長が可能となることが期待されているほか、リノール酸含量が低いため大豆臭の発生が少なく、豆乳、大豆の“あんこ”、大豆ミート(代替肉)などで大豆臭を抑えた加工品への応用が可能であるとしています。ウエブ上のニュースサイトでは、“オレイン酸80%の国産大豆「佐大H01号」本格栽培進む”といった記事や、「高オレイン酸大豆」というキーワードで検索すると、開発の経緯、生産と加工、商品化まで多くの情報が得られます。

 カナダで生産された高オレイン酸大豆は森光商店が独占的に輸入しています。2024年産の契約数量は2,000トン、平均収量は3.85トン/haですから栽培面積に換算すると520ヘクタールとなっており、育種学研究室を卒業したKK21とB12の遺伝子は、カナダの大地に広がっていることになります。

4 日本育種学会賞受賞祝賀会、72A同窓会on加唐島

 穴井豊昭先生の日本育種学会受賞の祝賀会を2024年11月9日に開催しました。農学部からは6人の先生が、育種学研究室からは24歳から86歳までの38名の卒業生が出席です。「育種学研究室はすごい」を確認できた祝賀会でした。

11月13・14日は、72Aの学生さんに誘われて唐津市加唐島に行ってきました。「先生、行こう行こう」と家まで迎えに来ます。佐賀、福岡、熊本の、今岡靖弘、浦橋信国、白武義治、立場久雄、徳永春喜、中山信春、光武 司、吉岡秀樹の諸君です。1972年は、私が佐賀大学に戻って来た年であり、72Aの学生さんとは“新入生歓迎ソフトボール大会”を企画しました。学園紛争の対策とされるお金を使って、(学生気分が抜けずに)騒いだ仲間達です。引退して田畑を継いだ、イネ、ムギの栽培している、趣味が昂じての、(認知症に薬効ありの)怪しげなイチョウ酒を作っている(楽しそう 😄 ) ・・・・ があって、お土産は、椎茸のホダ木2本、日本ミツバチの蜜、オリーブ油であり、全て自家製です。

話しました! ここ加唐島と近くの小川島には、40年前に?「農家調査に来た」と言います。農業経済の白武義治先生は“(日本の)農家は絶滅危惧種になる”と主張しています。大きい、小さい、兼業で、趣味で? いずれでも、農業は国を支える基盤です、土地があったら “耕しましょう” これが私の提案です。