磯本 一 先生(医7期) 講演抄録(H30年度 医学部同窓会総会・講演会)

update: 2018.06.26

「臨床実用を目指した消化器内視鏡研究~医師主導治験、産学官連携、医工連携さらに医物連携へ~」

 

鳥取大学医学系研究科 統合内科医学講座 機能病態内科学分野

磯本 一

 

 光線力学的治療 (Photo-Dynamic Therapy : PDT)は、低エネルギーのレーザー光照射により選択的にがん病巣を治療可能な低侵襲な治療法です。本邦での半導体レーザーとTalaporfin Naを用いた再発性食道癌に対するPDTの医師主導治験に参画し、産学官が一体となって2015年の保険収載を実現しました。トロント大で開発された高密度ポルフィリンナノ粒子(ポルフィゾーム)は近赤光の照射によりPDTと光温熱治療(PTT)が可能であり、胆膵癌を標的に新規ハイブリッド治療の実現を目指して、斯る経験を活かしたいと考えています。

 光線力学的診断(Photodynamic diagnosis:PDD)の際に、光感受性物質として用いられる5-アミノレブリン酸(5-ALA)は細胞内で代謝されプロトポルフィリンⅨ(PpⅨ)に代謝されます。PpⅨは腫瘍細胞内に蓄積する傾向があり蛍光物質として特性を利用し、胃癌の早期発見とスクリーニングを目指して、5-ALAを用いたレーザー光線力学的内視鏡診断用内視鏡SieP-1 を開発しました。また、液晶チューナブルフィルタ(LCTF)は2次元画像に対するナノサイズ波長幅で分光計測が可能であるため、波長データを画素ごとに取得し、高い分解能で画像化できる実体顕微鏡を企業と共同開発し、興味深い知見が得られています。内視鏡分子イメージングのさらなる進化を求めて、極限量子計測技術の開発を応用した医学物理学連携(筑波大―鳥取大量子生命科学ユニット)に着手しました。

 広範囲の表在性食道癌の内視鏡的粘膜下層剥離後の狭窄予防のため、自家口腔粘膜上皮細胞シート移植に注目しました。開始から5年、東京女子医大と共同研究で臨床研究を完遂しました(Isomoto et al. Sci Rep 2017)。「細胞シートの空輸」という新たな発想と安全性・有効性の実証は、遠隔再生医療の1つの可能性を示していますが、ここにも産学連携の機器開発が活かされています。

 H.pylori陰性時代の上部消化管疾患としては消化性潰瘍が減少しGERDや機能性疾患が増加していますが、超高齢化社会を迎え胃癌の罹患数は未だ減少していません。胃癌死亡率の高い鳥取県・協会けんぽの協力を得て30-50代の胃癌リスク無料検診(ABC検診)が導入されました。胃癌検診では鳥取県・新潟県の疫学調査をもとに内視鏡検査が推奨されましたが、内視鏡施行医の検査レベルの均てん化が必要と考えました。工学部・企業と連携し、ナビゲーションガイドと評価機能を付与し自主学習を可能にする内視鏡用医療教育シミュレータロボット「Micoto」を上市しました。IoT技術を投入することにより医学教育、医療系ロボットの普及と当該分野の産業の拡大にも貢献したいと考えています。